フランス在住の歴史学徒に「黄色いベスト」について聞いてみる(パート4)

世川祐多から:

Q3:大都市圏はリベラルで田舎は保守か? 何が左派と右派を分かつのか。

A. フランスにも、保守地盤の田舎はあるにはあります。しかし、一概に田舎がみな保守とはいえ ない現況があります。

統一県議会議員選挙の結果の推移をみてください。(青が右派・ピンクが左派)


サヴォアやマンシュのように、常に右派が勝つ保守地盤もあるにはありますし、南仏のように常に左派が勝つ地盤もあります。
マンシュがなぜ保守派が多いかというのは、伝統的にこの地区は伝統主義で王政復古を志向するからだそうです。それ以外は、あまりネットに理由が見当たらず、現地に行って聞くしかありません。歴史的経緯があるはずです。しかし、ほとんどの地域は左派が勝つときもあれば右派が勝つときもある。2015年からは今に続く通り、右派が盛り上がってきているように見えますし、2008年は左派旋風があったようです。

これは、私のブログの「黄色いベスト(3)」で、左翼も右翼もナショナリストなのだということを説明しましたが、フランス人の多くの投票傾向というのは、国としての方向性が、こちらの方がいいか悪いかで決まります。つまり、多くのフランス人が支持政党を決めているわけではなく、国のあり方の指針を示し、多くの賛同を得た議員なり大統領が勝つということです。右派も左派も普通リベラリストのナショナリストばかりですから、何をもって右派と左派を分かつかが問題となります。

フランスの黄色いベストたちは主流が職工左翼で、今やマクロン退陣運動を展開し始めましたが、彼らはアナーキストを除けば、多くがフランス国旗を掲げております。黄色いベストとは無関係ですが、フランス共産党と左翼戦線の共闘ポスター「資本主義では金持ちにしか決定権がない。いまこそやるとき、レジスタンスに参加しよう!」でさえ、こんなものがあります。

日本では左翼が日章旗を掲げるということはまずありませんし、彼らが愛国を謳うこともほぼありません。日本共産党が日章旗や旭日旗を掲げていたら意外すぎて吹き出すと思います。通常、武力放棄や9条護持、反権力・人権・労働者の保護などを掲げ、日本の国体は論じませんし、極左団体の支持を得ることから、反日と呼ばれていますが、こちらの左翼はアナーキストを除いてナショナリストですから、反仏とは呼ばれません。

また、フランスの軍備放棄・核武装放棄なども極端な反戦団体や反核団体を除けば、主張しません。国家の自衛権の問題や安全保障の問題は、右派も左派も意見が同じことが多いわけです。戦争は嫌いでも、国軍は大切にされ、国家の安全保障は第一であります。

では、フランスでは何をもって左翼と右翼を分かつのかといえば、左翼は通常社会主義や共産主義を基本理念に、民衆による国家の革新を求め、富の配分を主張します。右翼は、伝統主義、王政復古、モラル、などを理念として国体の向上を掲げます。すると労働者や移民を多く有するパリや近郊は、どうしても左派が強くなりますが、しかし、右派がいないというわけではありません。高級な地区は確かに右派です。

田舎も伝統的にそこで暮らしてきた、ブルジョワやカトリックや百姓家を中心に、伝統主義者が多いので保守が多くなりますが、その他穏健な労働者など、中道な人たちは、国の行く末を任せるのが左派の方がいいと思うときは左派に、右派がいいと思うときは右派に入れるわけです。すると、フランスでは、揺るぎのない、確実な右翼・確実な左翼という人間は、何に起因して分かたれるのでしょうか。これは、一にアイデンティティ、二に経済事情です。

まずはアイデンティティ。フランスは、封建社会・身分社会を経ており、一応古くからのフランス人の家々は表面的ではなくても身分を持ちます。伝統を重んじるのは、伝統的な家庭、すなわち、貴族・昔からのブルジョワ・百姓です。カトリックは極めて少なくなったといえども、いまだに残るカトリック教徒はこれらの階級に多くいます。

しかし、全体として彼らの数は多くはない。これが揺るぎない右翼。逆に、伝統を重んじないのは、職工や労働者という実は極めて近現代的な肉体労働の職業に位置づく人々。都市の平民などです。これらが揺るぎない左翼の中核。また、社会的に下位に置かれがちな黒人やアラブ人などの移民は、富の再分配や人権を求めて左派に行くことが多いのは想像に易いと思われます。

二に経済事情。新興ブルジョワ、あるいは、エリートというのも近現代の産物ですが、マクロンのようなエリート層。移民といえども、金銭的に成功している人というか、金に困っていない人々。これも右派になります。彼らは新自由主義を標榜することが多くあり、伝統とはかけ離れることが多くありますが、資本の側にいますから左翼にはなりえません。経済的に困窮する者は、どうしても左翼になります。あとは、移民であっても、これ以上移民の数が増えたら、失業率があがって自分たちがさらに圧迫されることを恐れる人が、右派になるという複雑なケースもあります。

日本もこのように、伝統と経済をもってして、アイデンティティで分かれる右翼と左翼の構造は同じだと思います。公家や武家という人たちは、無論、上級下級も合わせて、伝統への意識が強く、右翼になります。社家も、通常神道という伝統を担っているわけで右。お寺さんの家なども、宗派により例外もありますが、だいたいは右が多いでしょう。農家も、戦国ぐらいからその土地を耕し続け、伝統の生活に位置づきますから右が多い。

日本は家や先祖信仰というものがあるので、日本で伝統を重んじない階層というのは、実はないと思うのですが、近代以降スラム化したり、社会の下層に落ちたために、社会に対しルサンチマンを抱かざるを得ない階級は、左派になるでしょう。富裕層が右派に分類され、貧困層が社会主義や共産主義に共鳴するのも同じです。フランスより、日本の方が本質的に右派が多く、これをして、戦後の自民党の55年体制が維持され、だいたい政権は自民党が担う現状があると思います。

しかし、フランスと決定的に違う問題があります。それは、ナショナリストの左翼と伝統主義の保守政党に欠けることです。ナショナリストの左翼というのは、昔いました。浅沼稲次郎という社会党右派の重鎮です。彼は古来より続く皇統を重んじる尊皇家であり、三宅島の庄屋の家柄のままに、農耕社会たる日本の伝統を大切にしました。民社党というのもこの系譜を引き、自衛隊を擁護し、反共の社会主義という筋の通ったナショナリスト左翼政党でした。

しかし、なぜかこういう政党が消えてしまった。フランスは共和制以前を見据えた党があります。反対に、日本には伝統を定義し、これを保守せんとする政党が一つもない。伝統を定義することとは国体を定義することであり、これが日本の政治家は苦手です。つまり、「フランスは王様と農業だよね」というような伝統に鑑みた国のあり方の定義です。自民党は保守政党の代表のように言われているけれども、伝統主義ではない点からして、保守保守ではない。日本維新の会とかも保守野党ではあれ、伝統主義ではない。

歴史に鑑み、日本の伝統とは何か、しっかり吟味・定義して、明治以前の日本を見習って、日本ならではの伝統社会の復古や保守を社会に訴える政党は未だかつてないわけです。たとえば、江戸時代には局部を写した春画も、西洋からバカにされないために、明治の刑法で猥褻物頒布・陳列の罪を作ったために、局部が消えてしまった。その名残が、今のAVのモザイクであるわけです。この明治刑法では、刺青を入れることも禁止しましたから、あの美しい和彫はやくざが文化として守ることになり、やくざの象徴と化したら、今では普通の人で刺青のある人が、温泉に行けないという愚かなことになっているわけです。

伝統政党が作られ、そこそこの勢力になれば、日本のAVからモザイクが消え、春画も復活し、かっこいい和彫の彫り物が溢れる江戸のエッセンスに溢れた社会になるでしょう。平安も面白いですね。LGBTにも西洋型社会よりかはるかに寛容です。性ももっともっと自由になるはずです。あるいは、日本の気候風土に適した着物を着る人が増えたり、モラルは確実にもっともっと良くなるでしょう。また公権力が庇護すべき伝統文化が、西洋的価値観に基づく法のために萎縮する本末転倒なことがなくなります。

例えば、政教分離というフランスでも無理をきたしているものが見直されます。天皇陛下が、古来と変わらず、民や平和のためにされる、日本そのものとも言える宮中祭祀を、国のお金でできます。東大寺や法隆寺なんかのメンテナンスも国家の金でやってやれ、日本の伝統文化そのものを守ることもできます。津々浦々の、朽ちていく古来からの神社仏閣を、権力が民の同意のもと助けてやることもできます。

官公庁が、地鎮祭など、日本の伝統文化に即した儀礼をした際に、政教分離違反などと叩かれることはなくなります。都市の生活になじめないものや、失業者で田舎暮らしに回帰したい人たちを帰農させることができれば、休耕田が再び実り、安全保障の一番の要たる食糧自給率が上がるかもしれません。

日本は近代化以前にこそ面白い点がたくさんあります。どの政党も、日本の伝統と国体の定義や、右派か左派かという思想より、各種団体の既得権益の代弁者としての政治団体になっている現在は残念であり、日本に政治の選択肢が増えて欲しいと願うばかりです。

・逆につかささんへ質問ですが、アメリカではどういう人が左派・右派になるのでしょうか?黒人のトランプ支持というのもいるようですね?世川祐多