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バルセロナとミラノで和食を!

2018.11.15 14:09


Text by Masu Masuyama 文・写真:マスヤマコム

「和食」は世界の子どもたちに受け入れられるか?

ショートムービー『オマカセ・フォー・キッズ』の撮影で、スペインのバルセロナとイタリアのミラノに行ってきた。ムービーの内容は、現地の子どもたち(小学校低学年)に、本格的な和食のフルコースを食べてもらい、そのリアクションやコメントを撮影、編集する、というものだ。これまでにも、ニューヨーク、フランスのブルゴーニュで撮影をしてきて、今回と合わせて4本できることになる。「和食」を通じた日本文化のプロモーションを目的とする、一般社団法人MAMの非営利事業のひとつであり、2019年にはネット上で無料公開の予定だ。

フルコースどころか、普通の和食もまったく知らないアメリカやヨーロッパの子どもたちが、初めて本格的な和食を食べるところを見ていると、毎回色々な発見がある。まず「食べないものが多い」のだ。肉を食べない子は、今のところ居なかったが、魚がダメ、キノコがダメ、生ものがダメという子は少なくない。味つけにも好き嫌いがはっきり出て、ダシの味が好きという子はほぼ皆無、一番驚かされたのは「醤油がダメ」という子だった。子どもたちを選ぶときに、食べ物の好き嫌い等は考慮せず、自然なリアクションをしてくれることを優先しているから、という理由もあるにはあるが。

「和食」というのは、実はとても不思議な文化だと思う。言うまでもなく、日本文化は歴史的に中国から大きく影響を受けていて、ここに書いている文字の一部も「漢」から来たものだ。衣食住のうち、衣も住も、近代以前は中国の影響が強いと言っていいだろう。食も、コメが主食なこと、箸や醤油を使うことなど、中国と似ている部分が無いわけではないが、一般的にイメージする「中華料理」と「和食」は、かなり異なっているのではないか?

典型的な例を挙げれば新鮮な「生魚」や「生卵」を日常的に食べるのは、とても和食的である。アメリカ、ヨーロッパでは、生で食べるのは牡蠣と貝の一部のくらいで、シーフードのイメージが強いイタリアやスペインでも、生魚を日常的に食べる習慣は無い(生肉はタルタル・ステーキとして人気がある)。

もちろん、海外で「スシ」は大人気であり、ちょっとしたスーパーならパック入りのものがごく普通に置いてある。しかし、その中身は火が通ったサーモン、エビ、アボカドなどがメインで、新鮮な生の魚介類が入っていることは稀だ。日本人がイメージする生魚メインの「スシ」を食べるためには、それなりの値段を取る飲食店に行く必要がある場合がほとんどだ。

また「サシミ」も、いわゆる「ジャパニーズ・レストラン」(日本人以外の経営も多い)では定番メニューだし、料理の名前としても世界各地で通用する。しかし、日本のようにスーパーでごく普通の食材として様々な魚介類が生で置かれているということは、まず無い。そもそも、生食する文化が無いので、魚の獲り方、絞め方、輸送、販売の仕方までが生魚に対応していないのだ。

ここで念の為、記しておきたいのだが「和食は素晴らしくて、世界に冠たる文化だ」という優劣を含んだ含意で書いているわけではない。「食」は、数ある「日本文化」の中でも、特にユニークなのではないかという仮説である。世界レベルで見れば、和食よりも、ハンバーガー、ピッツァ、パスタや、一部の中華料理の方が圧倒的にポピュラーであるのは間違いない。

欧米に長く居ると食べたくなるのは?

さて、あなたが、すでに数週間という単位でアメリカやヨーロッパに滞在しているとしよう、宿泊はホテルなのでキッチンは無い。大都市なので和食店もあるが、だいたいの場合、高額でそれほど美味というわけでもない。あなたは、何が食べたいと思うだろうか?

おそらく、多くの人は…

「あっさりしたもの」
「さっぱりしたもの」

…が食べたい、と言い出すのではないだろうか?冷奴、蕎麦、酢の物…etc.。

これは、複数の欧米人に軽く聞いたのだが、彼らは「あっさりしたもの」や「さっぱりしたもの」という概念が強くないように見える。もちろん「軽い食事」という表現は、ごく日常的だが、それにはハムやチーズも含まれてしまうので、我々がイメージする「さっぱりしたもの」というとレストランやカフェではサラダやフルーツ、くらいしか選択肢が無いのだ。

また、和食では料理に「油」を使わないことはよくある。味噌汁、おひたし、漬物、茶碗蒸し、焼き魚といった典型的なメニューでは、油は不要である。これもあるスペインの女性から直接聞いた話だが「オリーブオイルもワインもチーズも使わないで料理をする。それでも美味しいものができるなんて、想像もつかない!」のだそうだ。

和食という「料理」から離れてみても、日本の食生活は独特といえる。あなたが、朝はパンとハムエッグ、昼は中華だったとしたら、夜には何が食べたいと思うだろうか。おそらく中華ではないだろう。昼がパスタであれば、イタリアンではないだろう。そう、日本では「毎日、朝・昼・晩」そして毎日と同じようなものを食べることは、あまり歓迎されない。それは外食であっても自炊であってもだ。

しかし、私が知る限り、日本のような幅広い調理法や味付けの食事を、日常的にしているのは、ごく一部のフーディと呼ばれる飲食マニアか、さらにごく一部の富裕層だけである。今回、イタリアでは合計3回、イタリア人の友人宅で食事をごちそうになったのだが、出てきたのは、日本的感覚からすれば判で押したように似たようなもの「チーズ、パスタ、つけあわせの野菜」、そして飲み物はすべてワインである。

2015年12月30日のCNNの記事は、東京は「世界一の美食都市」であり、食材も素晴らしく、料理人の意識も技術も極めて高いとしている。今回、私が訪れたのはスペイン、イタリア、フランスと、日本では「美食」のイメージが強い国ばかりで、実際に現地ならではの素晴らしい料理も少なくないのだが、料理のバリエーション、繊細さという意味では、CNNに同意できると思う。世界の子どもたちが、本格的な和食を、どう食べたのか?ムービーの公開まで、少しお待ちください。

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本文、以上です。ツカサくん、ユウタくん、前回から一ヶ月以上も空けてしまって、ご心配おかけしました。フォンテーヌブローのユウタくん宅を訪ねてからも、すでに一ヶ月…。まぁ、ある種のユルさはあってもいいと思うんですが、ちょっとユルすぎですね(笑。埋め合わせ(?)に、数日後にもう1本アップします!

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