2018.11.18 09:50
Text by Masu Masuyama 文・写真:マスヤマコム
『料理が苦痛だ』(本多理恵子著/自由国民社)という本を読んだ。「料理が苦手」でもなく「下手」でもない。当たり前だ。著者は鎌倉でカフェを経営し、人気の料理教室を主宰する女性なのだから。
私自身は、料理が「得意」でも「上手」でもないかもしれないが、「好き」であることを公言している。しかし、この本を読む前から強く感じていたのだが、私が「料理好き」と気軽に言えるのは、それが義務ではないからだ。1人暮らしなので、好きな時に、好きなものを、好きなように作ればいい。あり合わせのモノでチャチャっと作ることも多いが、2日前から準備して(それなりに)凝った料理を人にふるまうこともある。
本書の著者が言う「苦痛」とは、「家族のために」「ちゃんとした料理」を「作り続ける」ことだ。確かにそうだろう。家族が終日居る日などは、朝・昼・晩と、準備や片付けを含めれば、1日のほとんどを料理に割かなければならない。一方、家事の中でも掃除や洗濯が「好きではない」人は多いかもしれないが「苦痛」とまで表現する人は、あまり居ないのではないか?それは、料理だけが「毎回違うアイデアと作業」を期待されるからだ。
そしてこの「期待」は、かなり日本的な現象ではないかと思う。本書でも、料理が苦痛であることの理由のひとつが「『毎日』『毎回』違うおかずを作るという呪縛」と表現され「日本ってご飯に手間をかけすぎてない??」と疑問を呈する。そして、苦痛や呪縛から逃れるための対処法が爽快なくらいシンプルだ。
「料理をやめる!」
これは、自分にとっても家族にとっても、毎日あたり前のようにやり(やってもらい)、食べていた料理/食事という活動を、いったん突き離して、それにどんな価値や意味があるのかという「対象化/相対化」の手順なのだと思う。私自身は、料理ではなく「食べるのをやめてみる」(断食!)を、年に2~3回、伊豆にあるリゾート的な専門施設でやるのが、ここ数年の通例になっている。「食べないこと」ほど、食の価値や意味を深く実感させられる行為は無い。少なくとも、私にとっては。
これは、他のことにも応用できそうだ。
・スマホもPCもやめてみる!
・徒歩以外の移動手段をやめてみる!
・性的な行為をやめてみる!
…etc.
本書では、料理をやめるための準備期間、そして実際にやめている間に、どういうことをすべきなのか、とても納得感のあるアドバイスが書かれている。そして、自分で決めた一定期間の後は「料理を再開する」のだが、そこに挙げられた「これなら作れるレシピ集」が、料理好きにとってはとても興味深い。本でもネットでも「簡単、ラクチン、○分でできちゃう!」という売り文句のレシピは数多いが、それとはやや発想が違い、料理をする人の「やる気」をもっとも重視するのだ。いわく「料理をしなくてもいいから、まずはキッチンに立ってみましょう」。
レシピの詳細など、ぜひ本書にあたってみてほしいが、ここで、私が日常的に「おもてなし」で使う、料理ともいえない「食べ方」の方法を紹介しよう。これは、今まで出した人全員にウケた「最初の一品」である。
材料
・木綿豆腐(なるべく豆の味が強そうなものがベター)
・オリーブオイル(エクストラバージンがベター)
・塩
・醤油
下準備
・豆腐をペーパーでくるみ、重しを乗せて皿を傾け、室温で1時間くらい水を切っておく。
レシピ(というほどでもない…)
・豆腐を小さく(切手2つ分くらい)、薄く(1cmくらい)、4つ分切る。
・4通りの味つけで順番に豆腐を食べる。
1:何も味つけしない。
2:少量の塩
3:塩とオリーブオイル
4:少量の醤油
冷奴、というか、豆腐をそのまま食べようとする場合、多くの人は「何も考えずに醤油をかける」のではないだろうか。もちろん、ショウガ、ネギ、鰹節などをかける人も居るだろう。しかし、ちょっと待った!皆さん「素材の味を楽しむ」のが好きではないんですか?豆腐って(もちろんモノによるが)、そのまま食べても充分美味しい。この順番通りに、小さな豆腐を口にすると、最後の「醤油」がいかに強い味つけの調味料かが実感できる。
これは、私が行く「断食施設」で、3日めの「回復食」に出てくる食事からヒントを得た食べ方だ。1日めは薄い味噌汁のみ、2日めはスムージーとスープのみ、という「食べない」日を過ごしてきた舌と脳には、塩も醤油もつけない(鰹節は少量かかっている)ごく少量の豆腐が、最高の美味と感じられる。この4種以外にも、マヨネーズだろうが、フレンチマスタードだろうが、一般的に味つけに使われる調味料なら、なんでも試せるはずだ。この手順ですら「苦痛」と感じる方は、おそらく「料理に興味が無い」のだと思う。
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ツカサくん、ユウタくん、本文は以上です。書評にするつもりで書き始めたのですが、最後、まさかのレシピ!笑。このシリーズ、続くかもしれません。