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フランス在住の歴史学徒に「黄色いベスト」について聞いてみる(パート2)

2018.12.25 12:42

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世川祐多から
リアクション2. 「私はヨーロッパ人」と自覚するビジネスマン

資本家やビジネスマンというのは、発想がグローバルであり、ボーダーレスな存在です。資本主義ですから、資本があるところに、どこへでも飛んでいき、国家を超越した思考をする。

例えば、楽天がいまはフランスにもありアメリカにもあるということは、楽天は世界企業であり、世界企業たるためには、全てを合理化する。日本語だけでは世界で合理的に渡り合えないから、英語を公用語にする。そして、ボーダーレスに世界中の企業を買収し、世界のRakutenになる。資本家として三木谷さんは超一流だと思います。

こういう人からすると、円だのドルだの決済貨幣が違うこと自体非合理的でしょうし、場合によっては国境も邪魔かもしれません。もともと、EUは、誰もがご承知のとおり、元はと言えば、欧州一丸となりソビエト反共のために、経済を統合して、少しでもヨーロッパが共産に汚染されないために作られた訳です。

そして、一つのヨーロッパ構想は、アメリカなどの大国の経済に対する一つの対抗軸として、彼らの汎ヨーロッパ主義を目覚めさせましたが、こういうビジネスマンや経済家などのヨーロッパ人として一つの強靭なヨーロッパ経済を築き、世界の大きな一極として回していく、ネオリベラリズムでボーダーレスな発想とは裏腹に、圧倒的多数の普通の人たちのナショナルな性格は崩せなかったということだと理解しております。

さらには、EUはもともと超国家的と言われていましたが、そのEUという仕組み自体が国家的でけしからんとアナーキーな人や極左がその欺瞞をついてきたと言うことで、EUもある意味本当の意味でのボーダーレスのネオリベラリズムなシステムとはいかなかった訳です。

Q1:フランス語のメディアやコメントで(ユウタくんが見る限りで)、これを「階級闘争」と明確に位置づけている動きはありますか?

A:パリ第七大学には、革命思想の教授陣がいて、この社会情勢の不安の中で、民衆による革命を呼び起こしたい人たちがいます。この12月には、フランス革命の映画数本が大学で上映され、映画監督と対話する集会が企図されました。

日本の歴史学者にも多いですが、革命思想を持つ研究者というのは、フランスにもいます。彼らにとっての憧れは、民衆の蜂起が貴族や特権階級を倒したという点にあります。彼らからしたら、これはエリート権力者という特権階級に対する、民衆階級の闘争という構図でしかありません。フランスの黄色いベストの職工も階級闘争をしているという意識でしょう。

そして、奇しくも、フランスと日本の1968年の学生紛争から50年が経過した今に、また大規模なデモがあったということで、極左の人たちが怪気炎を上げているのも事実です。ただし、現在ではフランス革命を後悔する反対派もたくさんフランスにはおります。

フランス革命の裏側で忘れてはならないのは、一万人以上の反対派が、それだけでギロチンされたというジェノサイドの事実、そして貴族を表面から消し去り全ての宗教を否定したら、街はゴミで溢れ、モラルを失いこのざまだという声もたくさんあります

フランスには絶対王政ではなく、立憲君主制としての王政復古を求める声も多く、残念ながら、すぐ暴力に訴えて、革命の名の下に、破壊したり間違えば殺戮をするような階級ではなく、伝統を重んじ、品位あるフランス王国の回帰を求める声も、田舎の百姓家とか、元貴族とか、カトリックとかブルジョワの中に多いのです。マクロンやトランプが国家の顔ってどうよということなのでして、これを恥じている人々も多いという訳です。

Q2:マクロンが辞めざるを得ないような状況はあり得るんでしょうか?

A.あり得ます。

マクロンは譲歩に譲歩を重ね、増税政策を完全撤回しましたから、当初の黄色いベスト運動の目的はすでに達成されました。しかし、クリスマス寸前だというのに、今週末も地方で道路を封鎖したり、パリでも規模は減ったとはいえ、過激なデモが続いております。彼らはやめないと言い張ります。それは、マクロンが彼らをなだめるために提示した条件が、中途半端すぎて、逆に火に油を注いだからです。

100ユーロ月額の最低賃金を上げるとしましたが、みんな「100ユーロごときで何になるんだ?逆に一人一人に100ユーロずつ企業が給料を上げたら、雇用できる数が逆に減るだろ馬鹿か?」と言っているのです。

貧困から抜け出す抜本的な改革を労働者は求めていますが、そういうことではなく、逆に雇用を脅かしかねない、逃げの一手でなだめようとしたので、今や、「Macron Démission ! マクロンやめろ!」という運動へと変質した訳です。

大統領の権威はすでに失墜して、これからさき政治判断をしていくことは不可能で、レームダック化した大統領ですが、議院内閣制の総理大臣とは違い、政権の座に居座ることは可能です。しかし、他の政党は攻撃の手を緩めませんし、このままデモが緩やかであれ続くとすれば、政権を降りざるを得なくなるかもしれません。

あとは、少数といえども一部民衆が、突き上げれば大統領の増税とかそういう政策を撤回させられるという味をしめているというのもキーかもしれません。

Q3:フランスの格差・不平等感と日本の決定的な違い

A.ジニ係数で格差を測っても、大金持ちと、低所得者層の割合が加味されていないから、ブルーカラーホワイトカラー問わず、実際の、「大多数の庶民階級」とか、「庶民の暮らしぶり」や「底辺のくらし」が反映されない問題があると感じます。

まず日本を考えます。日本なら、保障は弱いですが、働く気があれば、何をするかにもよりますが、アルバイトを掛け持ちして、月収手取り20万は可能だと思います。ガテン系の給料も悪くありません。また、物価といっても、吉野家とか、惣菜のおつとめ品とか、安くあげようと思えば、相当食費を抑えられますし、郊外もだいたい安全で、東京都内でも家賃が数万円のアパートもありますから、まだ生活が可能です。

おじいちゃんだとしても、警備員や、タクシーの運転手という職がありますから、底辺といっても、底が高い訳です。カップルで非正規雇用だとしても、力合わせて月収30万や40万行けば、それなりの暮らしができるはずですし、フランスに比すると、このカップルの所得は、高収入な旦那と専業主婦という家庭と等しくなるという逆説を持っています。

フランスの問題はアルバイトが全くないというような社会構造です。通常、労働者と雇用者の契約が強いので、たとえスーパーのレジで働くとしても、期限付きの契約社員(CDD)として働くことになります。

これは通常週35時間のフルタイム扱いですから、掛け持ちしてあれこれバイトするというわけにはいきません。これでいて、最低賃金が13万、マクドナルドが1000円以上するような物価高の中で、家賃と食費を出費しながら、どのように暮らせというのでしょうか?

また、平均月収が25万程度ですから、物価高の中で、平均してみんなエンゲル係数が超絶に高い貧困層なのだということです。私も含めて。

フランス人のライフスタイルとして服を持たないということがしきりに日本で言われていますが、裏を返せば国民のほとんどが貧乏であるフランスでは、都市部では家も狭く、たとえ地方の一軒家だとしても、エンゲル係数が高いのに、服をしこたま持っていることなどできません。他方大金持ちは、着飾ることが可能です。

指標として、知るべきはサラリーをもらう被雇用者の給与のバランスだと思います。2017年の統計ですと59%が手取り2000ユーロ・23万以下、月収8300ユーロ・90万は1%、4000ユーロ・43万は8%、月収3000ユーロ・33万は17%です。80%の被雇用者が手取り30万いかないぐらいの国です。2006年次のものですが、ほぼ変わらない、いいグラフを見つけました(下図)。

国民の被雇用者の8割が年収300万以下、そして、賃金が年功序列で上がるようなことはない。これに、9%の失業者が加わる社会をご想像ください。(世川祐多

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