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ニュートラルな街、トロント。

2019.02.09 03:59

Text by Tsukasa Kondo    文:近藤 司

年末にロンドンを初めて訪問したのですが、事前にマスヤマコム氏に「ニューヨーカーがロンドンに行くと、元ネタに見えるだろうね」と言われた通り、ただ街を歩くだけで「おお、ここはウェストビレッジみたいだ」「これはメトロポリタン美術館みたいだ」とマンハッタンの元ネタをあらゆるところに確認することになりました。

そして10日間ほどの滞在の後、トロントに帰国して驚いたのは少しリラックスしている自分に気付いたことです。それは自宅がある場所に戻ってきたからホッとする、ということではなく自分の政治的な/歴史的な属性を意識しなくてすむ、という面白い感覚でした。その時、横を歩いていたパートナーに向かって思わず口にしたのは「カナダは他の国よりもニュートラルで良いね」という言葉でした。

ロンドンにいると、ましてや観光をするとなおさら「大英帝国!!」という歴史とそこから来る富や国民の誇りのような物に圧倒されます。「この国は極めて豊かな時代をものすごく長い間経験してきたのだな」という印象が、ちょっとした建物や人々の身なり、言動に見えてしまうのです。ましてや他国の歴史的遺産や芸術作品を展示する大英博物館を見て回ると、その歴史と富、誇りに対して良くも悪くも何らかの感情を抱かずにはいられません。ロンドンは、イギリス人が歩くのと、私が歩くのでは見える景色が全く違うのだろうなと想像させられました。

当たり前過ぎて「何を今更」と言われるかもしれませんが、人は誰でもおぎゃーと生まれた瞬間に人種、性別、国籍、家系、といった属性によって社会的な特権や社会的な逆境を手にします。それが私達それぞれが持つ、世界の見え方を形作るわけですが、トロントの場合は誰であっても比較的まだフラットに映るのではないかなと思います。それが前述の「ニュートラルだ」という発言の理由です。

例えば私はゲイなので世界の様々な国々で死刑の対象になり得ます。そんな国を訪問することを想像すると、「おお、私はゲイだから刑罰の対象になるのだな」と強く意識するでしょう。ポリティカル・コレクトネスが普及しており、LGBTに対する権利に関しても進歩的(という言葉を使うのは憚られますが)なカナダでは、逆に自分が属している「ゲイ」というカテゴリーについて意識することがまずありません。

制度的なものにプラスして、トロントは急激な人口流入に併せてかなり人工的に拡大をしてきた都市です。歴史の積み重ねを感じるような建築物はそれほど多くなく、ダウンタウンには特徴のない高層ビルが並びます。そういう点では北米の多くの大都市ともあまり違いません。退屈だ、とも言えますが、逆にこのニュートラルな感じを自由だ、と感じることができるのは発見でした。

これについてロンドンに帰ってきてから、ジワジワと事ある毎に考えているのですが、街のデザインや広告、建築物はそれぞれが具体的な美意識によって作られているわけですので、「何が正統な物であるか」というメッセージを避けられないと思うのです。極端な例で言うと、日本家屋が多く並ぶ街ではその日本の伝統様式に権威がある、ロシア正教の教会が街の中心に大きくそびえ立っていればロシア正教に権威がある、白人の美男美女がポスターに並んでいればそれが美の典型である、というメッセージが出ざるを得ない、という具合です。

日本を含む、多くの国の多くの人は「この国の文化にとっては正統な物はこれ」と決まっていると感じているでしょう。上のように私がグダグダと興味を注いでいるようなトピックでも、「いやいやこの国は歴史の結果そうなってるんだからそういうものなの」と一蹴されてしまうことかもしれません。が、アメリカやカナダのような移民の国(先住民からすると迷惑な話ですが)では「正統って何さ」というのは深刻な問題なわけで。特定の宗教、人種、文化が正統であることを主張しない街作りって可能なのかなぁと妄想していると、高速道路の柱に「カナダは白人至上主義に基づいた国だ!」と告発する、エリザベス女王の顔に大きくバツ印が描かれた張り紙が目に入りました。

白人至上主義を主張する張り紙ではなかったのですが、カナダでエリザベス女王の顔にバツ印=白人至上主義に反対=カナダの立憲君主制に反対というスタンスが日本人にはピンと来ないかなと。。。

「そんな目に映る物全てを深読みしなくても」という自分の中のもう一人の声が聞こえながらも、目に映る全てのことはメッセージだってユーミンも言ってたしなぁと、思索を続けるトロントの木曜日でした。

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