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目黒はカリブ海にあり

2018.08.09 03:32

Text by Masu Masuyama 文:マスヤマコム

「死ぬまでに、一度(あるいはもう一度)行ってみたい場所は、どこですか?」

このテーマを軸に企画、編集された旅の本や写真集、Webサイトなどが、ここ数年、ブームから定番になりつつあると言っていいほどの広がりを見せていることもあり、いわゆる旅行好きでなくても、頭のどこかにある質問かもしれない。

ハワイ、ニューヨーク、パリ、モン・サン・ミッシェル、ウユニ塩湖、絶景ポイント…etc.。写真や動画では、逆に見飽きているような場所でも、実際に行ったことがある場所というのは、かなり限られているものだ。「行きたい場所は、特にありません」という答えは、達観したように聞こえなくも無いが、マンガや映画、アニメや小説という「物語」の世界を少しでも楽しむことができる人は「ここではないどこか」に行きたい願望がゼロだとは言えないと思う。もちろん、そこには実在しない場所や時間軸の違う「どこか」も含まれるが。

ここでは「実在する場所」に限ってみよう。国内外を問わず、自分が定住しているエリア以外で、ある程度の時間とおカネがあれば行けるところ(この時代、宇宙!という人が居るかも…)。その中で「一度は行ってみたい場所」をイメージしてみることは、アームチェアトラベラーの究極の楽しみではないだろうか。私の場合、そのひとつが「バハマ」だった。その理由は、あるレコーディング・スタジオの存在である。

バハマの中森明菜

「コンパス・ポイント・スタジオ」。70年~80年代のポップ・ミュージックが好きな人であれば、聞いたことがある名前かもしれない。そこでレコーディングされた楽曲から、私の好きな曲を並べてみよう。

Third World – “96 Degrees in The Shade”

Talking Heads – “Thank You For Sending Me An Angel”

The B-52’s – “Rock Lobster”

Roxy Music – “More Than This”

私は、FMラジオで番組をやっている(企画・構成・出演)仕事がらもあり「自分の好きな曲」については日常的に(しかも深く)考えている。そして上に挙げた4曲(あるいは4枚のアルバム)は、シンプルに「ムチャクチャ好きな」楽曲たちなのだ。もちろん、スタジオが名曲を生み出すわけではない。アビイ・ロードで録ればビートルズではないし(当たり前 笑)、ストーンズのモービル・スタジオで録れば…(以下略)。それを大前提にするにしても、コンパス・ポイント・スタジオで作られたレコードには、少なくとも私にとっては至上の名盤が多い。

素晴らしい楽曲が生まれるかどうか…音楽レーベル、プロデューサー、ミュージシャン、エンジニアなどの力量やセンスは当然として、リリースされるタイミングもかなり大事な要素だと思う。前者が「人の和」、後者が「天の時」だとすれば、スタジオは「地の利」になるだろうか?コンパス・ポイント・スタジオの「利」を求めて、古くは1979年に加藤和彦が、80年代には中森明菜や南野陽子といった歌謡曲勢も、90年代には吉田拓郎も、バハマまで飛んでレコーディングをしている。

しかし「カリブ海にあるバハマ諸島」といっても、その正確な位置や行き方、社会状況などをググらずに答えられる人は稀だろう。私も、今回、初めて行ってみるまで「NYから3時間」で行けるほど近いとは知らなかったし、行ってみてようやくピンと来た「実感」も少なくない。

バハマの目黒

まず、単純に言うと「ビーチリゾート」である。直行便ならNYから3時間、アトランタからなら、なんと2時間で着いてしまう。白い砂浜と青い海、充実したホテル群、カジノもある。さらに、ハワイよりはるかに広いエリアに、なんと700以上もの島しょ郡がある(人が住むのは30程度)。英連邦の加盟国なので、イギリス的な英語が使われ、マナーやドレスコードもアメリカよりきびしく、クルマは左側通行、君主はエリザベス女王である。

サラッと書いてしまったが、「アメリカ」と言っても、NYやカリフォルニア、ハワイくらい。中南米もざっくりと「スペイン/ポルトガル語圏」としてしかイメージしていなかった私にとっては「カリブ海にイギリス(的な場所)があった」というのは、軽いカルチャーショックでさえあった。イギリス的であることの意外な側面を強烈に体験したのは、1泊めの夜だった。ホテルのレストランはバカ高い割に大したことはない(推測)ので、口コミサイトで評判がいいスペイン料理の店に向かうことにした。沖縄本島とほぼ同じ緯度に位置するバハマだが、夜には気温27−28度程度。真夏の東京よりは、よほど快適である。ホテルの正面口から、タクシーを呼んでもらう。クルマはホンダ、右ハンドルで、運転手はガタイのいいアフリカ系のオバちゃん、服装もピンクで派手、トークも陽気である。ここまではいい。オバちゃんが言い始めた。

運「このクルマは日本のクルマなのよ。日本のクルマいいわよね。ところであんた、日本から来てるなら、日本語わかるでしょ?」

私「うん、わかるよ」

運「じゃあさ、ちょっと私のラジオ直してくんない?日本語でしか出てこないからわかりゃしない!」

私「え?何?壊れてるの?(意味がわかっていない)」

運「そうじゃないのよ、今、停車するから、アンタ助手席に来て、見てみてよ」

私「??(停車して助手席に乗り込む…)え?このカーナビ、なんで現在位置が『目黒』になってんの?!これって、東京の俺んちの超近所なんだけど!?」

運「だから言ってるじゃない、日本語しか出てこないのよ!ラジオ聴けるかしら?」

私「(だんだん状況がわかってくる)このクルマ、カーナビだけじゃなくて、いろんな表記がみんな日本語だ!日本の車検のシールまで貼ってある、笑。そっか、これ中古車を輸入して、そのまま使ってるんだ!笑」

運「何ゴチャゴチャ言ってるのよ、ラジオ聴けないの?」

私「これ、日本国内仕様のカーナビ(ラジオ含む)だから無理だと思うよ…。それにしても、よりによってカリブ海の真ん中で『目黒』って、なんかSF映画にでも入り込んだ気分だよ(この間、私ずっと笑)」


要は日本の中古車は、右ハンドルなので、世界では数少ない「左側通行」に向いており、バハマのような英連邦の国では人気なのだ。実際、日本中古車輸出業協同組合の統計を見てみると、2016年には約120万台の中古車が、日本から海外に輸出されており、輸出先のトップ30にはニュージーランド、ケニア、マレーシアなど左側通行の国が多い。バハマも29位に入っていて、年間6,000台以上の日本車が輸入されている。その後、別のタクシーに乗ったときも、同じような日本語表記の中古車だったから、それなりに人気なのだろう。人口比で計算してみたところ、日本国内の新車(国産車)は、1年に日本の人口の約5%に売れているのに対し、バハマでは人口の約2.5%に日本中古車が売れている計算になる。

(物価が高い以外は、ほぼ)完璧なビーチリゾートに来て、日本の中古車輸出状況を知るために電卓を叩くとは、まったく予想をしていなかったが、旅のおもしろさは「セレンディピティ」(良い意味での偶然の出会い)にあり、というのが私の持論である。これでまた、私のSRD(Serendipity)ポイントが(多分)5上がったと思う。死ぬ前に、来られてよかった。

2018年8月某日 文・写真 マスヤマコム


本文は↑まで、なんですが、このエッセイというか文章は、東京ベースの私(マスヤマコム/投資家・コンテンツP)、NY(トロント)ベースの近藤司さん(コンドウ・ツカサ/脚本家)、パリベースの世川祐多さん(セガワ・ユウタ/パリ第七大学博士課程日本近世史専攻)のリレー形式で続く予定なので、次の書き手に向けて、ちょっとパスを出しておきます。

ツカサくん、

遅くなりました。原稿はこんな感じです。少し前にチャットでこのページ(ゲイにとって旅行しやすい国かどうかのランキング。上位がしやすい国)のことを聞きましたが…

あれは軽い前フリでした。バハマは約200カ国中の121位で、まぁぶっちゃけかなり下の方ですね。上に書いた「コンパスポイント・スタジオ」は2010年にクローズしているんですが、その理由はWikipediaによれば下記です。

“The Nassau studio was closed in 2010 due to the Bahamas changing political and social positions; homophobia as a main point. Many of the artists from around the world who record at Compass Point were being placed in a more and more threatening and dangerous environment.”

これに触れても触れなくても、どちらでもかまいませんが、「伝説の」レコーディング・スタジオの閉鎖理由が、(まぁ経済的なこともあるんでしょうが)これ、というのは、軽いショックでした。では、近いうちにNYで。

マスヤマ

 

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