初めてのロストバ◯◯◯

Text by Masu Masuyama 文・写真:マスヤマコム

旅にトラブルはつきもの。笑い話で済むレベルのものもあるし、危険な事故に近いものだってあるだろう。日本に居ると、あたり前に享受している「便利さ」や「正確さ」が、実は海外ではほとんど期待できない、というのは少しでも海外に出たことがある人なら同意していただけるだろう。

ドラマな日々

8月末、かけ足でスペインに行ってきた。目的はひと月後にあるショートムービーの撮影のロケハン、である。目的地はバルセロナなのだが、日本からの直行便はマドリッド行きしか無いので、まずはマドリッドで1泊。翌日、空港に行き、時間があったので軽く食事することにした。カウンターに立派な生ハムの切り出す前の状態(何て言うのだろう?要は「豚のモモから足の部分」だ)をいくつも置いた店があったので、座ってみる。

生ハム(ハモン)を含めて、4品の注文をすると生ハムとミネラルウォーター以外の2品はすぐに出てきた。のどが渇いてきたので、ミネラルウォーターを催促。出てきた。しかし、生ハムが出てこない…。搭乗の時間も迫ってきたので「あぁこれがスペインだ…」と自分を納得させながら、英語があまり通じないサービスのオバちゃんに「チェックしてください。でも生ハム来なかったから、それはキャンセルで!」と強く言いつつ席を立とうとすると、たまたま私の右隣り居たオッちゃんが、私の前に自分が食べている生ハムの皿を差し出し「食べなよ」とジェスチャーで言ってきた!かなり賑やかなオープンスペース作りの店で、私は彼の逆側を向いてオバちゃんに「キャンセル」と言っていたのに、よく聞こえてるもんだな、と思いつつ、嬉しいサプライズに感謝して、一切れだけつまませてもらった。

バルセロナの空港に着いて、バゲッジクレームで荷物を待つ。なかなか出てこない…。今までの人生で、荷物をチェックインして飛行機に乗ったことは、数百回あると思うのだが、バゲッジが出てこなかったことは1度も無い。バゲッジが何らか理由で「ロスト」する確率は、2016年の統計で0.65%。計算すると約150回に1回だから、確率的には正しい?いやいや…などと時間をつぶしていても出てこない…。同じ飛行機に乗っていた乗客が十数人、私と同じように「やれやれ…」という顔をして荷物の出てこないベルトを見つめている。ついにターンテーブルは止まり、空港の職員がピックアップされなかった荷物を集め始めた。

私もあきらめて、バゲッジ関連サービスと書かれた窓口の長い列に並んだ。実は、乗ってきた飛行機は4時間遅れており、すでに23時を回っている…。ロストバゲッジ。私には初めてでも、窓口の職員にとっては日常だ。事務的に連絡先などを告げ、書類を受け取り「通常、明日にはお届けします」という言葉に少しだけ救われる。

スーツケースを持たず、トボトボと出口に向かいながら「万が一」と思い、自分の荷物が出てくるはずだったターンテーブルを見ると、遠くの方に数個、荷物が放置されている。さっき荷物が出てくるのが止まった後、次の便の荷物が出てくるくらいの時間は経っている。どうせ違うだろう、と諸行無常な気分で近づくと、1つめ、2つめ、3つめ…あった!!生ハムといい、バゲッジといい「トラブルの後の救済」という典型的なドラマを、毎日のように体験させてくれる。さすがダリやピカソを生んだお国柄…(これは皮肉ではない)。


前向きなあきらめ

バルセロナでは、泊まっていたAirbnbのエレベータがちょうどチェックアウト時に止まり、7階から手持ちで26kgの荷物を降ろさなければならない…という問題があった他は(その後、数日は筋肉痛)まぁまぁ順調にコトは進み、帰国する日になった。バルセロナから日本へは、北へ向かう方が距離的には近いのだが、スペイン往復の直行便を選んだため、いったん南へ、マドリッドまで国内便に乗らなければならない。通常は国内便から国際便でも、乗り継ぎの空港で荷物は航空会社が載せ替えてくれるのだが、チェックイン時に「これは(国内便と国際便の)予約が別々だから、マドリッドでいったん荷物をピックアップして、再度ドロップしてください」と言われた。めんどうだが、仕方がない。幸い、ターミナル間の移動は無いようなので、少し手間がかかるだけだ。乗り継ぎ時間は2時間近くある。

ゲートから搭乗までもスムース。予定より10分くらいは遅めだが、これくらいは普通のことだ。しかし、搭乗してからまったく動かず、アナウンスも無い。中央に1つしか通路が無い小さい飛行機で、私は前から5番目くらいの列に座っていたので、よく見えたのだが、いったん閉じていた機外へのドアが再び開けられ、蛍光色の作業着を来た技術職員らしい男性が複数乗ってきて、コックピットへと消えた。

10分経っても20分経っても、まったく進まない…。アナウンスも無い。機内の男性CAが、何人かの乗客にスペイン語で話しかけている。私はスペイン語はわからないので「荷物をピックアップする時間が…」とイライラしつつも、どうすることもできない。30分、40分…ついに1時間経ってしまった。最悪の場合は、マドリッドの空港で1泊か?!などと思いつつ、まだ待っていると、男性CAが英語で話しかけてきた

「東京に行かれるんですよね?」

「そうです」

「これはお客様が選択されることですが…荷物を受け取って再度載せる時間が無さそうです。荷物は、そのままにして、お客様は東京行きの搭乗ゲートに向かわれるのがベストかと思われます」

「え?!あ…はぁ」

私自身も、当然、そういう選択肢も考えなくはなかったが、どうしても「自分の荷物をあきらめて、空港に放置する」という行為のイメージがわきにくく、荷物を優先して空港に1泊?とと思っていたのだ。まさか、航空会社側から「それ」を勧められるとは…。

結局、マドリッドには1時間以上遅れて到着。私以上に困った顔の「メキシコ行き乗り継ぎ」の乗客は、降りたとたんに走り始めた。私は、荷物さえ無ければ、そこまであわてる必要も無いので、東京行きのゲートに向かう。機内で言われたとおり、ゲートの職員に「バルセロナからの便から、東京行きに、荷物を載せ替えてもらえないだろうか?」と一応打診してみたものの「無理ですね」と一言。

成田には定刻に着き、ターンテーブルで航空会社の職員にバゲッジのタグを見せつつ状況を説明すると、さすが日本、大変恐縮しながら手続きを進め、税関にも一緒に来てくれた。考えてみれば、1週間のヨーロッパ旅行から戻ってきて、背中のバックパックひとつ、というのもかなり怪しい。バゲッジには急いで必要なものは何も無く、都内の自宅に戻れば、当然、生活に必要なものはそろっているので、まぁ無事に帰って来られたからよかった、無料でバゲッジ届けてもらえるのは、ある意味ラッキー…などと思いつつ、成田エクスプレスに乗った。

それにしても、人生「初めてのロストバゲッジ」が「自主的なロストバゲッジ」になるとは、想像もできなかった…。

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本文は以上ですが、ツカサくん、マドリッドの信号は「LGBT仕様」になってました!

ちなみに、バゲッジが自宅に着いたのは、帰国後4日め。早いのか遅いのか、よくわかりません 笑。