恋愛はオンラインがスタンダードに。あなたの運命の相手は何ヘイター?

Text by Tsukasa Kondo    文:近藤 司

2008年9月4日に私はスーツケース一つを持って、演劇学校に通うために渡米しました。ニューヨークのJFK空港に降り立った私のスーツケースの中には学生時代に2万円払って購入した電子辞書が入っていました。子どもの時から英語を使う環境で育ったため英語には自信があったものの、いざアメリカ生活を始めたらきっと知らない単語がたくさんあるに違いない。学校や役所でパッと調べられたら便利なはず。そう思って持ってきた電子辞書でしたが、予想通りあらゆる場面で大活躍でした。

 「昔は紙の辞書しかなくて大変だった」

ニューヨークで知り合った日本人の方々が「私が渡米してきた時は紙の辞書しか無かったから、いちいち辞書を引くのも大変だった」と言っていたのをよく覚えています。若い読者さんのために説明しておくと、私は1984年生まれで当時は24歳。「紙の辞書しかなくて大変だった」と言っていた人だって私よりも8歳年上なくらいでした。

 そんな中、先日購入した日本行きの航空券。特に選んだわけではなかったのですが、9月5日の便です。午前1時の便なので9月4日のようなものです。ちょうど10年たって太平洋を逆方向に渡る私のスーツケースにはもちろん、電子辞書は入っていません。英語が上達したからではなく、スマホで何でも調べられるようになったからです。

 スマホで英単語を調べている留学生を見たら、「私が渡米した時は電子辞書しか無かったから大変だった」と私だって苦労自慢できる時代になったわけですね。「テクノロジーの発展」という言い回しは何十年も使われてきましたが、考えてみると私達が一つのテクノロジーについて語る時間は非常に短いものです。

 There’s an app for that(それやってくれるアプリあるよ)」

 テクノロジーの盛衰と共に、言葉もまたその形を変えていきます。「辞書を引く」という表現が日常会話から消えてしまったのと同じように、8年後には「ググる」なんて言葉は誰も使わなくなっているかもしれません。

 私が渡米してからの3年ほど、ひたすら耳にした表現が「There’s an app for that.(それやってくれるアプリあるよ)」でした。iPhoneが爆発的に人気になり、成功したアプリ会社がいきなり何十億、何百億円もベンチャーキャピタルからお金を集めた、なんて話が新聞を賑わせ始めた時代です。「部屋探し?There’s an app for that.」「地下鉄の時間しらべる?There’s an app for that.」「タクシーつかまえる?There’s an app for that.」といった具合です。それまでの日常生活のちょっとした作業をアプリで簡略化する、ということが爆発的にテストされた時期でした。

 There’s an app for that.」というフレーズは全国的なトレンドとなり、セサミストリートもそれをモチーフにしたエピソードを作っています。

面白いのは、アプリ自体がさらに一般化したことで、今となってはこのフレーズを聞かなくなったことです。アプリという存在が新しかったからこそ、人々が「まだ国際電話なんてかけてるの?There’s an app for that.」と日常生活にアプリを導入するという作業を細かくする必要があったわけです。今ではアプリはしっかりと定着し、通信、エンタメ、交通、旅行、とそれぞれのカテゴリーで高いシェアを誇るアプリが確立しています。「それ、アプリでできるよ」と紹介する必要が無くなったわけですね。

 オンラインデートが変える、人類史

 アプリが代替したものはたくさん存在しています。そんな中でも特に、人間の歴史に残る大きなインパクトだ、と私が個人的に思っているのが「恋愛相手との出会い」、すなわちデート・アプリです。性格や趣味に関する質問にいくつも答えて、アルゴリズムが相性が良い可能性の高いデート相手を提案してくれるようなものから、ただ画像だけを右と左にスワイプしていくものまで、様々な人気アプリが世に出ています。アジア人向け、ユダヤ人向け、と対象ユーザーを絞ったものもあれば、「真剣な交際を考えている人だけ(カジュアルなセックス目的じゃない)」と目的を絞ったものもあります。

 基本的なシステムはどれも同じです。アプリ上で画像とプロフィールを見て、お互いに気に入ればマッチ成立。メッセージを交換します。チャットを通して会いたいと思えばデート。という流れです。1日に大量のユーザーのプロフィールと画像をチェックして、効率的に自分に興味を持ってくれる人を探すことができます。一般人の恋愛相手探しが、突然に指数関数的に効率的になったわけです。これが社会に影響を与えないわけがありません。

 (ウェブ・アプリによる)オンライン・デートが社会に与える影響に関する研究はまだ新しいものですが、すでにアメリカでは異性愛者間では「友人を通じて会う」に次いで二番目に多い出会い方となっており、同性愛者間では群を抜いて一番多い出会い方となっています。アメリカでは現在、結婚するカップルの1/3はオンラインで出会ったとされています。また従来のデート候補との出会い方とは違って、オンライン・デートでは相手は共通の友人などもいない、全くの他人であることが多く、交流が全くない社会的なグループを結びつけるという効果を生んでいるようです。異なる人種間の結婚も増えることが予想され、さらにはオンラインデートが存在している社会における結婚の方が強固であるというモデル・シミュレーションも出ています。オンライン経由での出会いから成立したカップルの結婚が一般化すればオンライン・デートに関するイメージも良くなり、さらに利用者は増えるでしょう。なにせほとんどのサービスが無料、かつ誰しもがスマホを持っている時代です。何回かクリックするだけで、もしかしたら運命の相手と出会えるかもしれない

 どうでしょう。「私の時は、リアルで出会わないと恋愛できなかった」と苦労自慢する時代がすぐ近くまでやってきているように思います。

「オレの彼女、アンチ巨人ファンなんだ」

いろんなコンセプトの物が作られてきたデート・アプリですが、個人的に面白いなと思ったのは元ゴールドマン・サックスの従業員によるアプリ「Haterです。Haterとは「嫌う人」の意味。ただ文句ばかり言うような人をまとめて「Hater」と表現することもあれば、特定の物を嫌っている人を◯◯Haterと表現することもあります。

このデート・アプリ、好きな物が同じ人をマッチングするのではなく、嫌いな物が同じ人をマッチングするというコンセプトです。どうですか。確かに好きな物よりも嫌いな物の方が相性を測る上では正確な気がしないでもないですよね。趣味が一緒じゃなくてもいい、お酒やコーヒーが好きじゃなくてもいい、好きな映画が同じじゃなくてもいい、「巨人ファン/阪神ファンが大嫌い」という一点で同意できたら相性が良いことが分かる!という感覚でしょうか。

日本でも人気のテイラー・スウィフトの「Shake It Off」という歌では「And the Haters gonna hate, hate, hate, hate, hate(嫌う人は何やっても嫌ってくる)」と歌詞にHaterが使われています。皮肉にもアプリ「Hater」を紹介する記事では共通の「Hate」ポイントの例としてテイラー・スウィフトが使われていますが

しかし新しいデートアプリが次から次に出てくるということは、恋愛相手を上手く見つけている人もいる一方で、新しいアプリを必要としている人もいるわけです。「ニューヨークで恋愛するのは難しい」とは良く言われます。理由は人によって違うでしょうが、多くの人が同意するのは「Everybody is looking for the next best thing.」というもの。The next best thingは「次のベストな物」。つまりちょっと相性が良い人が見つかっても「もっと良い相手」が見つかったらそっちに移りたい、と皆が思っているということです。ニューヨークという上昇志向な街に集まる高スペックな人々によるデート市場ではこの気質も強そうです。相手に自分こそが「the best thing in townfor me)」だと思ってもらわないといけない。アプリによってデート・システムがさらに効率化することで競争は一層熾烈になっているのでしょう。

 #私の運命の相手はこれが嫌いなはず

 もしも「自分の運命の相手が嫌いだったらいいなと思う物をリストアップしなさい」と言われたら、皆さんは何を挙げますか?#私の運命の相手はこれが嫌いなはずハッシュタグを使ってツイッターやFacebookで教えてください。

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 と、本文はここまでです。ちなみにマスヤマさんの前回のエントリーの冒頭では「死ぬまでに、一度(あるいはもう一度)行ってみたい場所は、どこですか?」という質問が投げかけられていました。なかなか答えるのが難しい質問ですね。私にとっては「死ぬまでに、おそらく一度も行かない場所」という質問に答える方がずっと簡単です。

 私はゲイなので、ゲイであること自体が違法であり死刑にもなりうるサウジアラビアやイランに行くことはまず無いように思います。死刑にならなくともホモフォビアが強いとされているロシアやアフリカの国には進んで行くことは無いように思います。人生は短いので、限られた時間を使って旅行に行くのであれば、マスヤマさんが挙げていたような「LGBTにフレンドリーな場所」の中から自分が興味のある場所をピックアップして訪れると思います。パートナーのことを友人、と嘘をついて紹介しないといけない。手をつないでいたら後ろから殴られて殺されるかもしれない。なぜわざわざそんな恐怖を克服してまで旅行しないといけないんだと、つらつらと書いてみるとなぜデートアプリ「Hater」が開発されたかがピンときます。

 好きなものが好きな理由を説明するのは難しいですが、何かに対して自分が強固に「NO!」と言える時、それを説明するのは実に簡単です。自分が絶対にNO!と言うものを説明して恋愛相手を探すというのは、実はかなり奥深いものがあるのかもしれません。それがアンチ巨人であれ、アンチ阪神であれ。